『S温泉からの報告 』
『S温泉からの報告 』
◉はたしてこれは、誰に向けられた「報告」なのか?
「北八ヶ岳の登山口に当る標高千九百メートルのこの温泉宿に、わたしは逃げてきたのだと考えるようになったのが、着いてから三日目のことだ」――。連日の痛飲で、とうとう血を吐いた〈わたし〉。しかし、大学病院で精密検査を受けたものの、結果は「異常なし」だった。「いまあなたが動くべき方角は戌亥の方向だ」という占い師の言葉を信じ、胃腸によくきくというS温泉を訪ねてきたのだが……。「新潮」1968年4月号に発表。単行本『私的生活』(新潮社・1969年)所収。 第59回・芥川龍之介賞候補作。