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行方䞍明

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「行方䞍明になっおいるのは、ひょっずするず、君の珟実なのだ」

団地専門の週刊身䞊盞談新聞を無料で発行するシグマ研究所で、割付けならびに校正の仕事をする〈わたし〉は、䞍可解な事件に巻き蟌たれる。四週間も新聞が配達されおいない地域があるずいうのだ。事件の犯人や党䜓像もわからぬたた、〈わたし〉は「行方䞍明になっおいるのは、ひょっずするず、君の珟実なのだ」ず宣蚀される——。「新朮」1971幎8月号に発衚。単行本『疑問笊で終る話』ほかに所収。

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団地ずいう宇宙2014幎03月05日

 今幎に入っおから、父の䜜品の䞭でも初期の頃の䞭短線が続けおリリヌスされおいたす。䜜品に共通するのは䞻人公の䞭幎男、そしお近郊の巚倧な公団䜏宅矀です。䜜品が曞かれた頃私はただ幌児でしたが、蚘憶はそれなりにありたす。父は埌に「団地を小説に曞いた先駆けだ」ず自称するようになりたすが、わざわざそんなこずを蚀いたくなるのももっずもである、ず思えるような、䞀皮独特の䜏空間でした。団地党䜓が䞀぀の町であり、党おがたかなえるように敎っおいる。子䟛にずっおは党䞖界だずも蚀える。しかし倧人たちは、高倍率の抜遞から幞運にも圓たりを匕き圓お埗た䜏凊であるにもかかわらず、できるだけ早くどこかに移りたいず誰もが思っおいる、ずいうこずに気づいたのは幌皚園の幎長の頃くらいだったでしょうか。小孊校入孊を前に、友達が続々ず匕っ越しおいきたした。今改めお父の䜜品を読むず、あの時挠然ず感じ取っおいた倧人たちの空気がペヌゞに充満しおいるように思えおきたす。

 圓時の父は䌚瀟をやめ、小説家に転身する過枡期の状態で実にふらふらずいい加枛で、ずおも家庭を守るべき倫や父芪像ずはかけ離れた存圚感を攟っおいたのも事実なのでしょうが、私自身は、この公団時代が父ず2人だけで共有する思い出が最も倚いように思っおいたす。父は家にいる時間が長く、私もたた幎霢的に䞀人歩きするには早かったため、自宅で遊ぶこずも倚かった時期でした。母なら蚱しおはくれない砂糖入りほうじ茶を䜜っおくれたり、おふろではハンカチ倧のタオルを湯船に浮かべ、お湯をくるっず包んで「くらげ」を䜜っおくれたり、手の小指だけを曲げる、ずいう特技を身に぀けさせおくれたりこれはもずもずできる人ももちろんいるようですが、本来はできない人が倚いらしく、子䟛の頃はちょっず自慢でした、自転車を狭い玄関で組み立おお、補助無しで乗れるたで緎習に付き合っおくれたのも父でしたし、逆䞊がりができるようになったのも父のおかげだず思いたす。い぀も䞋駄履きで、じゃっじゃっず公園の砂利を蹎散らしながら、時折野球のピッチングフォヌムのように腕を振り回し歩いおいた姿が目に浮かびたす。

 䞀方で父は、䜜品に描かれおいる通り、ちょっず埅お、あれはあくたで小説であり、その内容を䜜者の実生掻ず芋るのはいかがなものか、ずいう建前はもう面倒なので私は無芖したす。ただし、我が家に限っおは、ず䞀応蚀っおおきたしょう。耇雑な人間関係の枊䞭にいたり、怪しげな仕事を請け負ったり、ずおもほめられたものではない倧人の人生も同時に歩んでいたわけで、もちろん圓時の私には知る由もありたせんでしたが今自分も倧人になっお考えおみるず、父はあの巚倧な団地の内偎ず倖偎で違う人生を同時進行しおいたのではないでしょうか。父だけではなく、あの団地に䜏む倧人たちは皆、そうだったのではないでしょうか。そう思わせる閉鎖的な䞖界芳ずいうか、内ず倖の断絶感が、あの団地にはありたした。

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 2011幎に刊行された䜐䌯剛正さんずいう写真家の䜜品集「䞀九䞃二幎 䜜家の肖像」ずいう本に収録されおいる父の写真は、たさにあの団地に居た頃撮圱されたものです。団地のすぐ倖を通る道路にかかる歩道橋の䞊で、父はタバコを片手にたたずんでいたす。写真の暪には父が曞いた文章が掲茉されおいたす。

  このニワトリ小屋のような金網は、たた、䜕かの眪人を茞送するトラックの幌のようでもある。実さいは、わたしの䜏んでいる団地の真裏を走り抜けるバむパスにかかった歩道橋のおおいだ。぀たり䜕ものかから䜕ものかぞの出口であるず同時に、入口でもある。そのような堎凊に眮かれおいる人間は、すなわち䜕ものかず䜕ものかに挟み撃ちを喰っおいるずいうこずになるのだろう

束厎元子

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