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嘘のような日常


お母さん、いまわたしはどこにいるのでしょう?

わたしが帰る場所はあるのでしょうか?

敗戦の年に北朝鮮で死んだ父親の三十三回忌に集う親族たち。父親の亡きがらは、当時、中学一年生だった〈わたし〉と兄とで凍てつく大地に墓穴を掘り、埋葬した。毎月の仕送りのたびに季節の花のことを記した手紙をよこす母親は、補聴器なしでは会話が難しくなった。若い頃、絵画を習っていたからか、スケッチブックに折々の花の絵を描くのが、いまの母親の日常だ。七人の兄弟は、それぞれ家庭を持ち、子供もいる。しかし、〈わたし〉と年子の弟だけは、法事に来られないのだという――。『夢かたり』『行き帰り』に続き、自身の引揚体験を描いた長編小説。季刊「文体」1号(1977年9月)〜5号(1978年9月)に発表。単行本『噓のような日常』(平凡社・1979年2月15日刊)に所収。

◉目次および初出

大阪土産……………季刊「文体」一号(一九七七年九月)

三十三回目の夏……季刊「文体」二号(一九七八年一月)

法事前の数日………季刊「文体」三号(一九七八年三月)

花山里………………季刊「文体」四号(一九七八年六月)

夜に帰る……………季刊「文体」五号(一九七八年九月)


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