『めぐり逢い』
◉何故この3DKの中の生活が、このテレビの一時間よりも面白くないのだろう?
家族の中で最も猫嫌いだった〈わたし〉が、ペット禁止の団地で猫を飼うことになる。野良猫のゴンと牝猫のナナだ。しかし、〈わたし〉には不思議だった。「妻や子供たちが、何故、自分の猫をそれ程までに飼いたがるのか。単に猫一般を愛するのではなく、自分の飼猫として可愛がらずにはいられない気持が、不思議だった」――。そして、ある日の午後、謎の電話がかかってくる。聞き覚えのない女の声は、「お宅では最近、猫を飼われましたね。あの猫は、余りいい猫じゃあありませんよ」と告げるのだった。夏目漱石の『吾輩は猫である』を本歌取りしたユーモア長編小説。新聞三社連合各紙(北海道新聞、中日新聞、西日本新聞)および東京新聞に1975(昭和50)年9月21日から12月31日まで連載。単行本『めぐり逢い』(集英社1976年3月25日刊)に所収。
◉もくじ
第一章 飼育以前
第二章 変心
第三章 猫番
第四章 好き嫌い
第五章 立ち別れ